「(1)コミュニケーションの基礎的能力に関すること。」は,幼児児童生徒の障害の種類や程度,興味・関心等に応じて,表情や身振り,各種の機器などを用いて意思のやりとりが行えるようにするなど,コミュニケーションに必要な基礎的な能力を身に付けることを意味している。
目次
具体的指導内容例と留意点
コミュニケーションとは,人間が意思や感情などを相互に伝え合うことであり,その基礎的能力として,
- 相手に伝えようとする内容を広げ
- 伝えるための手段をはぐくんでいく
ことが大切である。
障害が重度で重複している幼児児童生徒の場合,話し言葉によるコミュニケーションにこだわらず,本人にとって可能な手段を講じて,より円滑なコミュニケーションを図る必要がある。
周囲の者は,幼児児童生徒の
- 表情
- 身振り
- しぐさ
などを細かく観察することにより,その意図を理解する必要がある。
したがって,まずは双方向のコミュニケーションが成立することを目指して,それに必要な基礎的能力を育てることが大切である。
これらのことは,いわばコミュニケーションの発達における初期の活動を高める事柄であって,
- 認知の発達
- 言語概念の形成
- 社会性の育成
- 意欲の向上
と関連していることに留意する必要がある。
聴覚障害のある幼児児童生徒の場合,幼児児童生徒の発達の段階に応じて,
- 相手を注視する態度や構えを身に付けたり
- 自然な身振りで表現したり声を出したり
して,相手とかかわることができるようにしたりするなど,コミュニケーションを行うための基礎的能力を身に付ける必要がある。
自閉症のある幼児児童生徒の場合,興味のある物を手にしたいという欲求が勝り,所有者のことを確認しないままで,他者の物を使ったり,他者が使っている物を無理に手に入れようとしたりすることがある。
また,他の人の手を取って,その人に自分が欲しい物を取ってもらおうとすることもある。
このような状態に対して,
- 周囲の者はそれらの行動が意思の表出や要求を伝達しようとした行為であることを理解する
- 幼児児童生徒がより望ましい方法で意思や要求を伝えることができるよう指導する
ことが大切である。
言語発達に遅れがある幼児児童生徒の場合,語彙が少ないため
- 自分の考えや気持ちを的確に言葉にできないこと
- 相手の質問に的確に答えられないこと
などがある。
そこで,幼児児童生徒の興味・関心に応じた教材を活用し,
- 語彙を増やしたり
- ことばのやりとりを楽しんだり
することが必要である。
特に,幼児の場合は,言語による直接的な指導以外に,
- 絵画
- 造形活動
- ごっこ遊び
- 模倣
を通して,やりとりの楽しさを知り,コミュニケーションの基礎を作ることが大切である。
知的障害のある幼児児童生徒の場合,
- 自分の気持ちや要求を適切に相手に伝えられなかったり
- 相手の意図が理解できなかったり
してコミュニケーションが成立しにくいことがある。
そこで,
- 自分の気持ちを表した絵カードを使ったり
- 簡単なジェスチャーを交えたり
するなど,要求を伝える手段を広げるとともに,人とのやりとりや人と協力して遂行するゲームなどをしたりするなど,認知発達や社会性の育成を促す学習などを通して,
- 自分の意図を伝えたり
- 相手の意図を理解したり
して適切なかかわりができるように指導することが大切である。
コミュニケーションの指導では必然性や文脈が大切です。
また、本人のコミュニケーションの動機も必須です。
文脈も動機もない「言わせる活動」にならないように留意しましょう♪
他の項目との関連例
知的障害のある幼児児童生徒の場合,発声や身体の動きによって気持ちや要求を表すことができるが,発声や指差し,身振りやしぐさなどをコミュニケーション手段として適切に活用できない場合がある。
このような場合には,幼児児童生徒が欲しいものを要求する場面などで,
- ふさわしい身振りなどを指導したり
- 発声を要求の表現となるよう意味付けたり
するなど,幼児児童生徒が,様々な行動をコミュニケーション手段として活用できるようにすることが大切である。
また,知的障害と自閉症を併せ有する幼児児童生徒の場合,他の人への関心が乏しく結果として他の人からの働きかけを受け入れることが難しい場合がある。
このような要因としては,
- 興味や関心をもっている事柄に極端に注意が集中していたり
- 相手の意図や感情をとらえることが難しかったり
する場合がある。
このような場合には,個々の幼児児童生徒の興味や関心のある活動の中で,
- 教師の言葉掛けに対して視線を合わせたり
- 幼児児童生徒が楽しんでいる場面に教師が「楽しいね」,「うれしいね」などの言葉をかけたり
するなどして,人とやりとりをすることや通じ合う楽しさを感じさせながら,他者との相互的なやりとりの基礎的能力を高める指導をすることが大切である。
また,コミュニケーション手段として
- 身振り
- 絵カード
- メモ
- 機器
などを活用する際には,個々の幼児児童生徒の実態を踏まえ,無理なく活用できるように工夫することが必要である。
以上のように,コミュニケーションの基礎的能力に関する指導においては,一人一人の幼児児童生徒の実態に応じて,この項目に加えて,「3人間関係の形成」や「5身体の動き」等の区分に示されている項目の中から必要な項目を選定し,それらを相互に関連付けて具体的な指導内容を設定することが大切である。
AAC(拡大代替コミュニケーション)の考え方についても調べてみてください♪
PECS®(Picture Exchange Communication System®)の考え方もおすすめできます。