「(4)コミュニケーション手段の選択と活用に関すること。」は,話し言葉や各種の文字・記号,機器等のコミュニケーション手段を適切に選択・活用し,他者とのコミュニケーションが円滑にできるようにすることを意味している。
目次
具体的指導内容例と留意点
近年,科学技術の進歩等により,様々なコミュニケーション手段が開発されてきている。そこで,幼児児童生徒の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じて,
- 適切なコミュニケーション手段を身に付け
- それを選択・活用して
- それぞれの自立と社会参加を一層促す
ことが重要である。
例えば,音声言語の表出は困難であるが,文字言語の理解ができる児童生徒の場合,
- 筆談
- 文字板
- ボタンを押すと音声が出る機器
- コンピュータ
等を使って,自分の意思を表出したりすることができる。
なお,音声言語による表出が難しく,しかも,上肢の運動・動作に困難が見られる場合には,下肢や舌,顎の先端等でこれらの機器等を操作できるように工夫する必要がある。
視覚障害により点字を常用して学習する児童生徒の場合,キーボードでの入力や点字ディスプレイへの出力に慣れ,
- 点字と普通の文字を相互変換したり
- コンピュータの読み上げ機能を使って文書処理をしたり
するなど,コンピュータを操作する技能の習得を図ることが大切である。
さらには,点字携帯情報端末を学習や生活の様々な場面で活用することも考えられる。
弱視の幼児児童生徒の場合,自分にとって学習効率の良い文字サイズを知り,拡大文字の資料を必要とする場合などに,コンピュータの拡大機能などを使って,文字サイズ,行間,コントラスト等を調整し読みやすい資料を作成できるよう指導することが大切である。
また,進行性の眼疾患等で普通の文字を使用した学習が困難になった場合は,適切な時期に使用文字を点字に切り替える等,学習効率を考えた文字選択の配慮が必要である。
聴覚障害の幼児児童生徒の場合,
- 音声
- 手話,指文字
- キュード・スピーチ
等を使用して,周囲とのより円滑なコミュニケーションを図ることが考えられる。
また,文字や絵等を用いて,自分の考えや意思を表すことも考えられる。その際,どのような手段を用いてコミュニケーションを適切かつ円滑に行うのかを考えるに当たっては,それぞれの手段のもつ特徴と,それを用いる幼児児童生徒の障害の状態や発達の段階等とを考慮することが大切である。
さらに,幼児児童生徒が,状況に応じて主体的にコミュニケーション手段の選択と活用を図るようになるためには,
- そのコミュニケーション手段を用いることで,人とのやりとりがより円滑になる体験を積む機会を設けたり
- どうすれば円滑なコミュニケーションが行えるのかについて,幼児児童生徒自身が体験を通して考え,相手に伝わりやすい手段や伝え方を用いて伝えようとする機会を設けたり
することが大切である。
視覚と聴覚の両方に障害のある幼児児童生徒の場合,保有する視覚と聴覚の活用,触覚を活用したコミュニケーション手段が考えられる。
触覚を活用したコミュニケーション手段として,
- 身振りサインに触ること
- 手話や指文字に触れて読み取る触手話・触指文字
- 指点字
等があるが,障害の状態や発達段階等を考慮して,適切なコミュニケーション手段の選択・活用に努めることが大切である。
知的障害のある幼児児童生徒の場合,対人関係における緊張や記憶の保持などの困難さを有し,適切に意思を伝えることが難しいことが見られるため,
- タブレット型端末に入れた写真や手順表などの情報を手掛かりとすること
- 音声出力や文字・写真など,代替手段を選択し活用したコミュニケーションができるようにしていくこと
が大切である。
肢体不自由のある幼児児童生徒の場合,上肢操作の制限から,文字を書いたりキーボードで入力したりすることが困難となる。
そこで,画面を一定時間見るために頭部を保持しながら,文字盤の中から自分が伝えたい文字を見ることで入力のできるコンピュータ等の情報機器(視線入力装置)を活用し,他者に伝える成功体験を重ねることが大切である。
進行性の病気の幼児児童生徒の場合,症状が進行して言葉による表出が困難になることがある。
今後の進行状況を見極め,今まで出来ていたことが出来なくなることによる自己肯定感(自己を肯定的に捉える感情)の低下への心のケアに留意するとともに,コミュニケーション手段を本人と一緒に考え,自己選択・自己決定の機会を確保しながらコミュニケーション手段を活用する力を獲得して行くことも大切である。
自閉症の幼児児童生徒で,言葉でのコミュニケーションが困難な場合,
- まず,自分の意思を適切に表し,相手に基本的な要求を伝えられるように身振りなどを身に付けたり
- 話し言葉を補うために絵カードやメモ,タブレット端末等の機器等を活用できるようにしたり
することが大切である。
また,順を追って説明することが困難であるため,聞き手に分かりやすい表現をすることができないことがある。
そこで,
- 簡単な絵に吹き出しや簡単なセリフを書き加えたり
- コミュニケーションボード上から,伝えたい項目を選択したり
するなどの手段を練習しておき,必要に応じてそれらの方法の中から適切なものを選んで使用することができるようにすることが大切である。
LDのある児童生徒の場合,読み書きの困難により,文章の理解や表現に非常に時間がかかることがある。
そこで,
- コンピュータの読み上げ機能を利用したり
- 関係性と項目を図やシンボルなどで示すマインドマップのような表現を利用したり
することで,コミュニケーションすることに楽しさと充実感を味わえるようにしていくことが大切である。
たくさんの選択肢の中から最適解を見つけるのは、どう考えても時間がかかります。
生涯にわたって選択し続けるのは本人ですから、本人の選択・活用の力を高めることが重要です。
方法を押し付けるのではなく、ユーザーエクスペリエンスを重視した自立活動を進めましょう♪
他の項目との関連例
聴覚障害のある幼児児童生徒については,
- 聴覚障害を補助する聴覚的な手段としての補聴器や人工内耳等
- 話し言葉を的確に受容するための視覚的な手段としての読話やキュード・スピーチ,指文字,手話
等が単独もしくは組み合わせて用いられている。また,筆談など文字や絵等も確実なコミュニケーションを図るための手段として用いられている。
さらには,近年は,必要に応じてコンピュータ等の情報機器を用いることも手段の一つとして考えられる。
これらの選択・活用に当たっては,
- 幼児児童生徒の聴覚障害の状態
- 発達の段階
- 進路希望等の本人の意思
- 保護者の考え
等を総合的に勘案し,本人のもっている可能性を最大限に生かして,将来の自立や積極的な社会参加を目指した指導内容・方法の工夫を行うことが大切である。
その際,
- 積極的にコミュニケーションを図ろうとする意欲や自信の喚起
- 周囲に対する関心や人間関係の拡大等に留意するとともに,
- 主体的に状況を判断し,適切に手段を組み合わせたり,変更したりすること
等ができるようにしていくことも必要である。
また,幼児児童生徒の発達の段階や興味・関心等に応じて,自ら適切な手段を選択し,組み合わせを変更できるようにしていくための場面を設定していくようにするなどの配慮も必要である。
そこで,聴覚に障害がある幼児児童生徒に適切なコミュニケーション手段の選択・活用を指導するに当たっては,「1健康の保持」や「2心理的な安定」,「3人間関係の形成」,「4環境の把握」等の区分に示されている項目の中から必要な項目を選択し,それらを相互に関連付けて具体的な指導内容を設定することが大切である。
選択肢が増えることは自由で良いことです♪
一方で、現在の状況・自分の状態にあった選択をする力も求められるようになります。
合理的配慮を求める力にも直結しますので、手段を決めつけないように留意しましょう♪