「(2)感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること。」は,障害のある幼児児童生徒一人一人の感覚や認知の特性を踏まえ,自分に入ってくる情報を適切に処理できるようにするとともに,特に自己の感覚の過敏さや認知の偏りなどの特性について理解し,適切に対応できるようにすることを意味している。
感覚とは,「身体の内外からの刺激を目,耳,皮膚,鼻などの感覚器官を通してとらえる働き」である。
認知とは,「感覚を通して得られる情報を基にして行われる情報処理の過程であり,記憶する,思考する,判断する,決定する,推理する,イメージを形成するなどの心理的な活動」である。
目次
具体的指導内容例と留意点
障害のある幼児児童生徒の場合,視覚,聴覚,触覚,嗅覚,固有覚,前庭覚等を通してとらえた情報を適切に理解することが困難であったり,特定の音や光に過敏に反応したりする場合がある。
視覚障害のある幼児児童生徒の場合,障害の特性により屋外だけでなく屋内においても蛍光灯などにまぶしさを強く感じることがある。
そこで,
- 遮光眼鏡を装用するよう指導する
- その習慣化を図る
ことが大切である。
また,
- 室内における見えやすい明るさを必要に応じて他者に伝えたり
- カーテンで明るさを調整したり
できるように指導することが大切である。
自閉症のある幼児児童生徒の場合,聴覚の過敏さのため特定の音に,また,触覚の過敏さのため身体接触や衣服の材質に強く不快感を抱くことがある。それらの刺激が強すぎたり,突然であったりすると,感情が急激に変化したり,思考が混乱したりすることがある。
そこで,
- 不快である音や感触などを自ら避けたり
- 幼児児童生徒の状態に応じて,音が発生する理由や身体接触の意図を知らせる
などして,それらに少しずつ慣れていったりするように指導することが大切である。
なお,ある幼児児童生徒にとって不快な刺激も,別の幼児児童生徒にとっては快い刺激である場合もある。したがって,個々の幼児児童生徒にとって,快い刺激は何か,不快な刺激は何かをきめ細かく観察して把握しておく必要がある。
また,不足する感覚を補うため,身体を前後に動かしたり,身体の一部分をたたき続けたりして,自己刺激を過剰に得ようとすることもある。
そこで,例えば,身体を前後に動かしている場合には,ブランコ遊びを用意するなど,自己刺激のための活動と同じような感覚が得られる他の適切な活動に置き換えるなどして,幼児児童生徒の興味がより外に向かい,広がるような指導をすることが大切である。
ADHDのある幼児児童生徒の場合,注意機能の特性により,注目すべき箇所がわからない,注意持続時間が短い,注目する対象が変動しやすいなどから,学習等に支障をきたすことがある。
そこで,
- 注目すべき箇所を色分けしたり,手で触れるなど他の感覚も使ったりすることで注目しやすくしながら
- 注意を持続させることができることを実感し
- 自分に合った注意集中の方法を積極的に使用できるようにする
ことが大切である。
障害のある幼児児童生徒が言葉や数の学習で示す困難は,個々の認知の特性による場合が少なくない。
例えば,LDのある児童生徒の場合,視知覚の特性により,
- 文字の判別が困難になり,「め」と「ぬ」を読み間違えたり
- 文節を把握することができなかったり
することがある。
そこで,
- 本人にとって読み取り易い書体を確認したり
- 文字間や行間を広げたり
- 負担を軽減しながら新たな文字を習得していく方法
を身につけることが大切である。
こうした認知の特性は,特に,脳性疾患のある幼児児童生徒に見られることが多い。
これらの幼児児童生徒は,認知面において不得意なことがある一方で得意な方法をもっていることも多い。
例えば,聴覚からの情報は理解しにくくても,視覚からの情報の理解は優れている場合がある。
例えば,LDのある児童生徒の場合,書かれた文章を理解したり,文字を書いて表現したりすることは苦手だが,聞けば理解できたり,図や絵等を使えば効率的に表現することができたりする。
そこで,本人が理解しやすい学習方法を様々な場面にどのように用いればよいのかを学んで,積極的に取り入れていくように指導することが大切である。
また,
- 見やすい書体や文字の大きさ
- 文字間や行間
- 文節を区切る
- アンダーラインを引き強調する
などの工夫があれば,困難さを改善できる幼児児童生徒もいる。
したがって,幼児児童生徒一人一人の認知の特性に応じた指導方法を工夫し,不得意なことを少しずつ改善できるよう指導するとともに,得意な方法を積極的に活用するよう指導することも大切である。
心理的な負担が経験したり、学習が心理的に楽になることがわかることが大切です♪
同じ工夫をしている人が周りにいないので「自分だけで恥ずかしい」と思いがちです。
「自分には必要!」という信念を持てるように、心理的にも支えていきましょう!
他の項目との関連例
脳性まひの幼児児童生徒の場合,文字や図形を正しくとらえることが困難な場合がある。
原因としては,
- 数多く書かれてある文字や図形の中から一つの文字や図形に注目すること
- 文字や図形を構成する線や角度の関係を理解すること
が難しいことなどが考えられる。
このような場合には,
- 一つの文字や図形だけを取り出して輪郭を強調して見やすくしたり
- 文字の部首や図形の特徴を話し言葉で説明したり
することが効果的なことがある。
こうした幼児児童生徒一人一人の感覚や認知の特性を踏まえて指導を工夫するほか,上肢にまひがあり,文字や図形を書くことが難しい場合には,コンピュータ等を活用して書くことを補助することによって,学習を効果的に進めることができる。
また,学習活動を通じて,例えば文字の部首や図形の特徴については,話し言葉で聞いた方が理解しやすいというような自分の得意な学習のスタイルを知り,自ら使えるように指導することも大切である。
体の動かし方にぎこちなさのある幼児児童生徒の場合,
- リコーダーを吹くなどの指先を細かく動かす活動
- 水泳などの全身を協調して動かす運動
を苦手とすることがある。
これらの要因としては,固有覚や前庭覚の発達の段階等によるものが考えられる。
こうした場合には,個々の幼児児童生徒の発達の段階を把握した上で,現在できている動作がより確実にできるよう取り組むとともに,指や身体を,一つ一つ確かめながらゆっくり動かすようにするなど,発達の段階に見合った運動から行うようにすることが大切である。
また,こうした固有覚や前庭覚の発達を促す指導においては,幼児児童生徒に「できた」という経験と自信をもてるようにし,自己を肯定的にとらえることができるようにすることも大切である。
したがって,これらの指導においては,この項目に加えて,「5身体の動き」,「2心理的な安定」及び「3人間関係の形成」等の区分に示されている項目の中から必要な項目を選定し,それらを相互に関連付けて具体的な指導内容を設定することが大切である。
①学習方法(インプット)を工夫する
②学習用具(アウトプット)を工夫する
③苦手であっても練習してコツをつかむ
改善・克服に向けたこれらの選択肢を子どもが知っておくことが大切です♪