書くことの難しさについては学習障害、LD、書字障害、ディスレクシアといったキーワードで検索するとさらに幅広い情報にアクセスすることができます。
こちらの記事では、書くことが難しい子どもへの自立活動の考え方についてお示しします。
目次
書くことが難しい子どもの学習上・生活上の困難
- 漢字の学習に困難がある
- ノートを書くときに時間がかかりすぎる
- ノートを書くことにエネルギーをつかいすぎる
- 定期テストで本来の力を出せずに成績不振につながる
- 入試で本来の力を出せずに進路で不利になる
- 大人になってから書類の記入に困る
上記の学習上・生活上の困難に起因する人生の機会損失は見過ごせません。
知的障害や情緒障害などがない場合には、通常学級に在籍しながら、通級による指導で自立活動に取り組むことが大切です。
書くことが難しい背景・原因
書くことの困難の原因となる疾患は次のことが考えられます。
- 限局性学習症(書字障害:ディスグラフィア)
- 発達性協調運動症(DCD)
該当する疾患があるという知識がなければ、書くことの困難は「やる気がない」、「丁寧に書く気がない」といった気持ちの問題として理解・対応されることがあります。
努力して書こうとしているにもかかわらず、叱責されたり、からかわれたり、嘲笑されたりすると、本人の肯定感は著しく低下します。
特に、得意なことや好きなことを認めてもらえていない子どもの場合には、書くことの困難をもって
「自分はバカだ」
といった極端な自己認識をして、周囲にもそのように言い始めることがあります。
適切な理解と対応が必要です。
書字障害がある子どもへの自立活動への考え方
学校教育(特別支援教育)には自立活動という教育領域があります。
書字障害による学習上または生活上の困難を改善・克服することを扱うならば自立活動です。
通常の学級に在籍しているお子さんであれば通級による指導で自立活動の授業を受けることができます。
特別支援学級や特別支援学校に在籍している場合には、学校のカリキュラムの中に自立活動はあります。
※なお、知的障害、自閉症、情緒障害、病弱・身体虚弱などがなく、書字障害のみで特別支援学級や特別支援学校に在籍することは通常では考えにくいです。
ここでは、書字障害がある子どもへの自立活動の考え方、アイデアについて紹介します。
書字障害がある子どもへの治療教育アプローチとは、簡潔に説明すると書けるようになることをめざす取り組みです。
治療教育アプローチの考え方に沿った自立活動では以下のような学習目標が想定されます。
以下にその例を示します。
- 学習目標①書ける文字(漢字)が増える
- 学習目標②適切な大きさ・読みやすい字を書くことができる
- 学習目標③自分の特性に適した文字(漢字)学習の教材を選ぶことができる
- 学習目標④書きやすい教具を判断・選択することができる
- 学習目標⑤他の人と違う学習プロセスや道具などを受け容れることができる
- 学習目標⑥自分に合った方法を他者に説明することができる
上記の学習目標例は、①から順番に進めていくことを意味しているわけではありません。
現在の学習上又は生活上の困難の状況に照らし合わせて、優先順位を考えて判断することができます。
生涯にわたって活きる力を育むと考えると、書く練習だけでなく、取り組みたいことは様々あります♪
※学習目標の文章については、それぞれの子どもの具体的な姿を想像しながら改変されてください。
書字障害がある子どもへの機能代替アプローチとは、字を書くことによって達成される目的を別の手段で補えるようになることをめざす取り組みです。
機能代替アプローチの考え方に沿った自立活動では以下のような学習目標が想定されます。
以下にその例を示します。
- 学習目標①ノートに書く代わりにタブレットの写真やアプリを使って記録できる
- 学習目標②キーボード入力やフリック入力などができる
- 学習目標③状況に応じて代替手段を使うかを判断できる
- 学習目標④他の人と違う手段を使うことを受け容れることができる
- 学習目標⑤代替手段を使う理由を他者に説明できる
現代の子どもたちは日常生活の中にスマートフォンやタブレット端末があります。
大人が思っている以上に操作を覚えるのは早し、優れた使い方のアイデアも思いつきます♪
フリック入力やキーボード入力については、
- ボタンの配置
- ローマ字入力
- 記号の入力
- タッチタイピング
など身につけたい知識やスキルがたくさんあります。
「子どもには難しいのでは?」
という意見もありますが、それは意外と思い込みです。
今はかわいらしいタイピングゲームがたくさんあるので、子どもも熱心に取り組みます♪
子どものころからタイピングに馴染んでおくと、苦手を補うものだったのに周りの人に評価されるスキルになってきますよ♪
※学習目標の文章については、それぞれの子どもの具体的な姿を想像しながら改変されてください。
治療教育アプローチ・機能代替アプローチ どちらを選ぶべき?
学術の世界では、どちらが正しいかという論争になることがよくあります。
おそらくこれは習慣からきていると思います。
治療教育アプローチと機能代替アプローチはどちらが正しいといったジャッジをするものではありません。
治療教育アプローチと機能代替アプローチはどちらも効果的です。
何を優先的に学習するか、焦点化して学習するかはそれぞれの子どもの発達段階や状況によって異なります。
代替手段も便利です。
これは文明が進歩していることの恩恵です。
書いて伝えることも便利です。
文字は長い長い歴史を持ち、廃れることがなかったツールです。
どちらかに寄りすぎることなく、両方の良さを認めておくことが大切です。
「やっても意味がない」ことはありません♪
将来のために、子どもが自分で選べる手段を増やしておくことが大切です。
本人のニーズを踏まえて判断しましょう
書くことの負担が大きく学習意欲が低下しているときは機能代替アプローチで負担軽減を図ることも大切です。
他の人と違う手段を使うことに罪悪感を感じることもありますので、自己理解や手段を受け容れられるように子どもと話しましょう。
機能代替アプローチを試した結果、書くことを選択することもあります。そのときには子どものモチベーションが高いので書く学習にも取り組みましょう。
両方の選択肢があるということを理解した上で、発達の状況に応じて比重を変えていく判断も大切です。
どのような自立活動を展開するかは、課題設定プロセスに沿って計画しましょう。
話し合って決めるプロセスも大事な自立活動の学習です。
将来、主体的に合理的配慮を求めるときの力になります♪