「(3)障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること。」は,自分の障害の状態を理解したり,受容したりして,主体的に障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服しようとする意欲の向上を図ることを意味している。
目次
具体的指導内容例と留意点
障害による学習上又は生活上の困難を理解し,それを改善・克服する意欲の向上を図る方法は,障害の状態により様々であるが,指導を行うに当たっては,幼児児童生徒の心理状態を把握した上で指導内容・方法を工夫することが必要である。
筋ジストロフィーの幼児児童生徒の場合,
- 小学部低学年のころは歩行が可能であるが
- 年齢が上がるにつれて歩行が困難になり
- その後,車いす又は電動車いすの利用や酸素吸入などが必要となる
ことが多い。
また,同じ病棟内の友達の病気の進行を見ていることから将来の自分の病状についても認識している場合がある。
こうした状況にある幼児児童生徒に対しては,卒業後も視野に入れながら学習や運動において打ち込むことができることを見つけ,それに取り組むことにより,生きがいを感じることができるよう工夫し,少しでも困難を改善・克服しようとする意欲の向上を図る指導が大切である。
肢体不自由があるために移動が困難な幼児児童生徒の場合,手段を工夫し実際に自分の力で移動ができるようになるなど,障害に伴う困難を自ら改善し得たという成就感がもてるような指導を行うことが大切である。
特に,障害の状態が重度のため,心理的な安定を図ることが困難な幼児児童生徒の場合,寝返りや腕の上げ下げなど,運動・動作をできるだけ自分で制御するような指導を行うことが,自己を確立し,障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲を育てることにつながる。
LDのある児童生徒の場合,
- 数字の概念や規則性の理解や,計算することに時間がかかったり
- 文章題の理解や推論することが難しかったり
することで,自分の思う結果が得られず,学習への意欲や関心が低いことがある。
そこで,自己の特性に応じた方法で学習に取り組むためには,
- 周囲の励ましや期待,賞賛を受けながら
- 何が必要かを理解し
- できる,できたという成功体験を積み重ねていく
ことが大切である。
障害に起因して心理的な安定を図ることが困難な状態にある幼児児童生徒の場合,
- 同じ障害のある者同士の自然なかかわりを大切にしたり
- 社会で活躍している先輩の生き方や考え方を参考にできるようにして
心理的な安定を図り,障害による困難な状態を改善・克服して積極的に行動しようとする態度を育てることが大切である。
障害による困難な状態を改善・克服するのはあくまでも手段・過程です!
「自分の力で何を成し遂げたいのか」これが重要です♪
他の項目との関連例
聴覚障害のある幼児児童生徒の場合,
- 人とのコミュニケーションを円滑に行うことができなかったり
- 音声のみの指示や発話を理解することができなかったり
するため,学習場面や生活場面において,人とかかわることや新しい体験をすることに対して,消極的になってしまうことがある。
このため,自分自身の聞こえにくさによって,
- 人とかかわる際にどのような困難さが生じるのか
- 新しい体験をする際にどのように行動したり,周囲に働きかけたりするとよいのか
を考えたり,体験したりすることを通して,積極的に問題解決に向かう意欲を育てることが重要である。
そこで,障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲の向上を図るためには,この項目と併せて,「1健康の保持」や「4環境の把握」,「6コミュニケーション」等の関連する区分に示されている項目の中から必要な項目を選定し,それらを相互に関連付けて具体的な指導内容を設定することが大切である。
吃音のある幼児児童生徒の場合,学校生活等においてできるだけ言葉少なくすまそうとするなど消極的になることがある。
このような要因として,人とのコミュニケーションに不安感や恐怖感を抱えていることが考えられる。
このような場合には,自立活動担当教師との安心できる関係の中で,
- 楽しく話す体験を多くもつこと
- 様々な話し方や読み方を体験したり
- 自分の得意なことに気付かせて自信をもたせたり
すること等を通して,吃音を自分なりに受け止め,積極的に学習等に取り組むようにすることが大切である。
その際,好きなことや得意なことを話題にして自ら話せるようにするとともに,達成感や成功感を味わえるようにすることも必要である。
したがって,吃音のある幼児児童生徒が学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲が向上するためには,この項目に加えて,「1健康の保持」や「3人間関係の形成」,「6コミュニケーション」等の区分に示されている項目の中から必要な項目を選定し,それらを相互に関連付けて具体的な指導内容を設定することが大切である。
知的障害のある幼児児童生徒の場合,コミュニケーションが苦手で,人と関わることに消極的になったり,受け身的な態度になったりすることがある。
このような要因としては,
- 音声言語が不明瞭だったり
- 相手の言葉が理解できなかったり
- 失敗経験から人と関わることに自信がもてなかったり
- 周囲の人への依存心が強かったり
することなどが考えられる。
こうした場合には,まずは,
- 自分の考えや要求が伝わったり
- 相手の意図を受け止めたり
する双方向のコミュニケーションが成立する成功体験を積み重ね,自ら積極的に人と関わろうとする意欲を育てることが大切である。
その上で,言語の表出に関することやコミュニケーション手段の選択と活用に関することなどの指導をすることが大切である。
したがって,知的障害のある幼児児童生徒が主体的に学習上又は生活上の困難を改善・克服しようとする意欲の向上を図る上では,この項目の内容と「4環境の把握」,「6コミュニケーション」等の区分に示されている項目の中から必要な項目を選定し,それらを相互に関連付けて具体的な指導内容を設定することが大切である。
LDのある児童生徒の場合,
- 文章を読んで学習する時間が増えるにつれ
- (学習の)理解が難しくなり
- 学習に対する意欲を失い
- やがては生活全体に対しても消極的になってしまう
ことがある。
このようなことになる原因としては,
- 漢字の読みが覚えられない
- 覚えてもすぐに思い出すことができない
- 長文の読解が著しく困難になる
- 読書を嫌うために理解できる語彙が増えていかない
ことも考えられる。
こうした場合には,
- 振り仮名を振る
- 拡大コピーをするなどによって自分が読み易くなることを知ること
- コンピュータによる読み上げや電子書籍を利用するなどの代替手段を使うこと
などによって読み取りやすくなることを知ることについて学習することが大切である。
また,書くことの困難さを改善・克服するためには,
- 口述筆記のアプリケーション
- ワープロを使ったキーボード入力
- タブレット型端末のフリック入力
などが使用できることを知り,自分に合った方法を習熟するまで練習することなども大切である。
これらの使用により,学習上の困難を乗り越え,自分の力で学習するとともに,意欲的に活動することができるようにすることが大切である。
こうした代替手段等の使用について指導するほか,代替手段等を利用することが周囲に認められるように,周囲の人に依頼することができるようになる指導も必要である。
したがって障害による学習上の困難を改善・克服する意欲に関する指導については,この項目と「4環境の把握」,「6コミュニケーション」等の区分に示されている項目の中から必要な項目を選定し,それらを相互に関連付けて具体的な指導内容を設定することが大切である。
- 先生が環境づくりをして成功体験を積む
- 成功の要因を子どもが理解する
- 子どもが自分で環境づくりをする
- 環境づくりを習慣化し、周囲に理解を求める
- 社会の進歩を活かして環境を改善し続ける意欲・態度を育む
「先生が環境づくりをして子どもが成功体験を積む」から発展していくためには、「活動のふりかえり」が重要です♪