「(5)認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること。」は,ものの機能や属性,形,色,音が変化する様子,空間・時間等の概念の形成を図ることによって,それを認知や行動の手掛かりとして活用できるようにすることを意味している。
認知とは,前述したように「感覚を通して得られる情報を基にして行われる情報処理の過程であり,記憶する,思考する,判断する,決定する,推理する,イメージを形成するなどの心理的な活動」を指す。こうした活動を適切に進めていくことによって幼児児童生徒は発達の段階に即した行動をすることが可能となる。
一方,概念は,個々の事物・事象に共通する性質を抽象し,まとめ上げることによって作られるものであり,認知の過程においても重要な役割を果たすものである。
「認知や行動の手掛かりとなる概念」とは,これまでの自分の経験によって作り上げてきた概念を,自分が新たに認知や行動を進めていくために活用することを意味している。したがって,極めて基礎的な概念を指しているが,常時行われる認知活動によって更にそれが変化し,発達に即した適切な行動を遂行する手掛かりとして,次第により高次な概念に形成されていくと考えられる。
目次
具体的指導内容例と留意点
視覚障害のある幼児児童生徒の場合,事物・事象の全体像を捉え,必要な情報を抽出して,的確な概念を形成することが難しい。
そこで,幼児児童生徒が触覚や保有する視覚などを用い,
- 対象物の形や大きさ
- 手触り
- 構造
- 機能
等を観察することで,的確な概念を形成できるようにするとともに,それらの概念を日常の学習や生活における認知や行動の手掛りとして活用できるように指導することが大切である。
例えば,
- 校舎模型を使って諸室をていねいに確認する学習に取り組み
- その位置関係をしっかりと理解する
- 様々な教室間の移動を容易にする
- 駅の発車案内板の位置や表示の仕組みを十分に理解しておく
- 駅で単眼鏡を使っての読み取りが容易になり
- 見通しを持って行動できるようになる
などである。
肢体不自由のある幼児児童生徒の場合,身体の動きの制限により,上下,前後,左右,遠近等の概念の形成が十分に図られず,空間における自分と対象の位置関係を理解することが困難になることがある。
そこで,
- 自分の身体の各部位を確認するような活動を通して
- 自分の身体に対する意識を明確にする
- 行動の基準を言葉で確認しながら
- 空間概念の形成を図る
ことが必要である。
知的障害のある幼児児童生徒の場合,概念を形成する過程で,
- 必要な視覚情報に注目することが難しかったり
- 読み取りや理解に時間がかかったりする
ことがある。
そこで,
- 興味・関心のあることや生活上の場面を取り上げ
- 実物や写真などを使って見たり読んだり,理解したりすることで
- 確実に概念の形成につなげていく
よう指導することが大切である。
自閉症のある幼児児童生徒の場合,「もう少し」,「そのくらい」,「大丈夫」など,意味内容に幅のある抽象的な表現を理解することが困難な場合があるため,指示の内容を具体的に理解することが難しいことがある。
そこで,
- 指示の内容
- 作業手順
- 時間の経過
等を視覚的に把握できるように教材・教具等の工夫を行うとともに,
手順表などを活用しながら,
- 順序や時間
- 量の概念
等を形成できるようにすることが大切である。
また,自閉症のある幼児児童生徒の場合,興味のある事柄に注意が集中する傾向があるため,結果的に活動等の全体像が把握できないことがある。
そこで,一部分だけでなく,全体を把握することが可能となるように,順序に従って全体を把握する方法を練習することが大切である。
ADHDや自閉症のある幼児児童生徒の場合,活動に過度に集中してしまい,終了時刻になっても活動を終えることができないことがある。
このような場合,
- 活動の流れや時間を視覚的に捉えられるようなスケジュールや時計などを示し
- 時間によって活動時間が区切られていることを理解できるようにしたり
- 残り時間を確認しながら,活動の一覧表に優先順位をつけたりするなどして
- 適切に段取りを整えられるようにする
ことが大切である。
LDのある児童生徒の場合,左右の概念を理解することが困難な場合があるため,左右の概念を含んだ指示や説明を理解することがうまくできず,学習を進めていくことが難しい場合がある。
このような場合には,様々な場面で,見たり触ったりする体験的な活動と「左」や「右」という位置や方向を示す言葉と関連付けながら指導して,基礎的な概念の形成を図ることが重要である。
弱視の幼児児童生徒は,
- 見ようとするものに極端に目を近づけたり
- 見える範囲が限られる
場合があったりするために,全体像が捉えにくく,地図やグラフなどに示されている情報の中から必要な情報を抽出することが困難なことが多い。
そこで,
- 不必要な情報を削除したり
- コントラストを高めたりして認知しやすい教材を提供する
- これまで学習してきた知識やイメージを視覚認知に生かす
などの指導を行うことが大切である。
様々な概念は各教科でも指導する内容です。
自立活動では「即、実生活に役立てる」という視点を重視すると、整理しやすいです♪
他の項目との関連例
聴覚障害のある幼児児童生徒の場合,視覚的な情報を適切に活用して作業等を行うことが大切である。
例えば,幼児が折り紙をする場合で,教師や友達の折り方を見て,同じように紙を折るような活動の際には,それぞれの作業過程を的確な言葉に結び付けていくことが大切である。
折り紙の例では,
- 「端をぴったり重ねる」
- 「角が重なるように折る」
- 「左手で押さえて,右手で折り目を付ける」
- 「片方を開く」
などの言葉を知り,実際に作業できるようにする必要がある。
このような言葉と行動の対応関係を,生活の様々な機会を通じて繰り返していくことで,その概念を的確に身に付けることができるのであり,さらに,習得したこれらの概念を用いて,幼児はより複雑な事柄の認知や作業に取り組むことが可能になる。
そこで,この項目を中心としつつ,「4環境の把握」や「6コミュニケーション」等の区分に示されている項目の中から必要な項目を選定し,それらを相互に関連付けて,幼児児童生徒が興味・関心をもちながら取り組めるような具体的な指導内容を設定することが大切である。
肢体不自由のある幼児児童生徒の場合,ものの機能や属性,形,色,音を分類する基礎的な概念の形成を図ることが難しいことがある。
このような要因としては,
- 上肢操作や手指動作のぎこちなさ
- 見えにくさ
- 聞こえにくさ
などを有していることが少なくないことが考えられる。
このような場合には,幼児児童生徒が手掛かりとしやすい情報の提示方法を明らかにして,多くのものに関わらせ,それぞれのものの特徴を把握させることが大切である。
はじめて関わるものについては,教師がその特徴を言語化して伝えることで予測する力を育てることができる。例えば,言葉の理解が難しいものの,特定の色を分類できる幼児児童生徒の場合には,教室から体育館までの経路の要所に特定の色を提示して,それを手掛かりに体育館まで一人で移動をすることが考えられる。
したがって,肢体不自由の幼児児童生徒が基礎的な概念を形成していくためには,この項目の内容と「4環境の把握」の他の項目や,「5身体の動き」,「6コミュニケーション」の区分に示されている項目の中から必要な項目を選定し,それらを相互に関連付けて具体的な指導内容を設定することが大切である。
特別支援学校には、施設内に様々な記号(シンボル)が掲示されています。
「なんでココに新幹線が貼ってあるの??」と考古学的思考が発動します。
その記号を手がかりしている子どもの実態を知ると、すごく参考になりますよ♪