目次
はじめに
知的障害がある子どもが抽象的な概念を理解するのに苦労することはよくあります。この問題に直面する教師として、どのような支援や指導が効果的かを考えることは重要です。
この記事では、その具体的な方法について詳しく解説します💡
1.抽象的な概念の理解が難しいことのデメリット3選
抽象的な概念を理解することが難しい子どもが直面する可能性のあるデメリットを3つ紹介します。
(1) 学習意欲の低下
理解が難しいため、授業についていけず、学習意欲が低下することがあります。これが長期的な学習の難しさを引き起こす原因となり得ます。
(2) コミュニケーションの困難
抽象的な概念を理解できないことで、他者とのコミュニケーションが難しくなることがあります。特に社会生活において、この困難は大きな影響を及ぼします。
(3) 自己効力感の低下
理解できないことが多いと、自分に自信を持つことが難しくなり、自己効力感が低下します。これは、学業だけでなく、日常生活全般に影響を及ぼします。
2.指導・支援の目的
(1) 具体的な例を使って説明する
抽象的な概念を具体的な事例や視覚的な資料を用いて説明することで、理解を助けます。
(2) 反復練習を行う
繰り返し同じ概念を異なる方法で教えることで、理解を深めることができます。
(3) グループ学習の活用
他の子どもとの協力を通じて、異なる視点から学ぶ機会を提供します。
3.想定される子どもの実態
知的障害のある子どもが抽象的な概念を理解することが難しい理由や、それに関連する実態について詳しく説明します📕
(1) 認知的な処理能力の制限
知的障害のある子どもは、情報の処理能力が限られていることが多いです。このため、抽象的な概念を理解するために必要な高次の認知的処理が難しくなります。
- 具体的な事例
- 例えば、数の概念を理解する際に、「5つのりんご」という具体的なものは理解できても、「5」という抽象的な数の概念を理解するのが難しいです。これは、視覚的に確認できる具体的な情報に依存しやすいためです。
(2) 言語理解の遅れ
抽象的な概念は言語を通じて説明されることが多いため、言語理解の遅れがある子どもにとって、これが理解をさらに難しくします。
- 具体的な事例
- 例えば、「友情」や「正義」といった抽象的な言葉の意味を理解することが難しいです。これらの概念は具体的な経験や事例を通じて少しずつ理解されますが、言語理解が遅れていると、そのプロセスがさらに困難になります。
(3) 記憶力の制限
知的障害のある子どもは、短期記憶や作業記憶が弱いため、抽象的な概念を保持し、操作することが難しいです。
- 具体的な事例
- 数学の「分数」の概念を理解する際に、「1/2」と「1/4」の違いを覚え、それを操作することが難しいです。視覚的な助けがないと、概念の理解と保持が難しくなります。
(4) 注意力の問題
注意力が散漫になりやすいことも、抽象的な概念の理解を難しくします。注意を持続させることが難しいため、抽象的な説明や複雑な指示を理解することが困難です。
- 具体的な事例
- 授業中に長い説明を聞いている間に、注意がそれてしまい、重要なポイントを見逃すことがあります。具体的なビジュアルや手を動かす活動がないと、集中力を保つのが難しくなります。
(5) 感覚過敏や感覚鈍麻
知的障害と自閉症のある子どもは、感覚過敏や感覚鈍麻がある場合があり、これが学習に影響を及ぼします。特に、環境の変化や過度の刺激に対する反応が、抽象的な概念の理解を妨げることがあります。
- 具体的な事例
- 教室が騒がしいと集中できず、抽象的な説明を聞き取れなかったり、光や音に過敏に反応してしまい、授業内容に集中できないことがあります。
(6) 経験不足
抽象的な概念は具体的な経験を通じて学ぶことが多いため、経験の不足も理解の障害となります。日常生活での多様な経験が少ないと、抽象的な概念を結びつける基盤が乏しくなります。
- 具体的な事例
- 「経済」の概念を理解するには、買い物の経験やお金のやり取りなど、具体的な日常生活の経験が必要ですが、これらの経験が不足していると、抽象的な概念を理解するのが難しくなります。
これらの実態を理解し、具体的で視覚的な教材や経験を通じて学ぶ機会を提供することが大切です😊これらの実態に応じた柔軟な対応を心掛け、子ども一人ひとりの学習を支援する必要があります💡
4.教材のアイデア
効果的な教材のアイデアを5つ紹介します。
(1) ビジュアルエイド(視覚情報)
イラストや写真を使った教材は、視覚的に理解しやすくなります。
(2) ハンズオンマテリアル(具体物)
触って学べる教材(例えば、立体模型や触覚教材)は、具体的な理解を助けます。
(3) ゲーム
学習をゲーム化することで、楽しみながら学べる環境を作ります。
(4) ストーリーベースの教材
具体的なシナリオを使って教えることで、抽象的な概念を理解しやすくします。
(5) マルチメディア教材
動画や音声を使った教材は、興味を引きやすく、多様な学習スタイルに対応できます。
5.活動の詳細(お金の学習を例に)
(1) 導入
授業の導入部分では、子どもの興味を引き、学習の目的を明確にすることが重要です。
- 具体的な事例やストーリーを提示
- 例えば、「今日は日常生活の中で使う『お金』について学びます。まずはスーパーに行くお話をしましょう」といった具体的なシナリオから始めます。ビジュアルエイドとしてスーパーの写真や商品の写真を見せると、より理解しやすくなります。
- 目標の明確化
- 今日の授業で学ぶことを簡単に説明します。「今日は、スーパーでどのようにお金を使うかについて学びます。何を買うか、どうやってお金を払うかを考えましょう」といった具合に、子どもが何を期待すべきかを明確に伝えます。
- 関連する前提知識の確認
- 既に知っていることを確認し、新しい学習に繋げます。例えば、「皆さんは以前、お店でお金を使ったことがありますか?どんな物を買いましたか?」と質問し、子どもの経験を引き出します。
(2) 展開
授業の中心部分では、具体的な教材や活動を通じて、学習目標を達成します。
- 視覚的・触覚的な教材の使用
- 実物や模型、おもちゃのお金などを使って具体的に示します。例えば、模擬店を教室に設置し、子どもが実際に「商品を選んで購入する」体験をさせます。
- 段階的な指示と確認
- ステップごとに学習を進め、子どもが理解できているか確認します。「まず、商品を選びます。次に、値段を確認します。最後に、お金を払います」といった具合に、各ステップを明確に指示します。
- グループ活動と協働学習
- ペアやグループを作り、協力して課題に取り組ませます。例えば、二人一組で模擬店の店員役とお客さん役を交代しながら行う活動を通じて、実際のコミュニケーションも学びます。
- 繰り返しと練習
- 同じ活動を繰り返し行い、理解を深めます。異なるシナリオや商品を使って何度も練習することで、習得度を高めます。
(3) まとめ・振り返り
授業の最後では、学んだ内容を振り返り、次の学習に繋げるための整理を行います。
- 学習内容の振り返り
- 今日学んだことを再確認します。「今日は、お金を使って買い物をする方法を学びました。どんな商品を買ったか覚えていますか?」と質問し、子どもに答えさせます。
- フィードバックの提供
- 子どもの理解度を確認し、フィードバックを行います。具体的な褒め言葉や改善点を伝えます。「とても上手にお金を払うことができましたね。次回は、もっとスムーズにおつりを確認できるようにしましょう」
- 次回への予告
- 次の授業内容を簡単に予告し、興味を持たせます。「次回は、レストランで注文する方法を学びます。どんなメニューがあるか楽しみにしていてください」
- 自己評価と相互評価
- 子ども自身に今日の活動を振り返らせ、自己評価を行わせます。また、グループでの相互評価を行い、お互いにフィードバックを与えます。「今日の活動で一番楽しかったことは何ですか?」「次回はどう改善できますか?」などの質問を投げかけます。
これらのステップを通じて、子どもが授業内容をしっかりと理解し、自信を持って次の学習に臨めるよう支援します。
6.評価基準(3段階)
評価基準は、行動レベルで評価できる客観的な基準を設定することが重要です。ここでは、具体的な行動を基にした評価基準を3段階に分けて示します。
(A) 十分に理解している
- お金を使ったシミュレーション活動で、正しい金額を支払い、お釣りを正確に受け取ることができる。
- 商品の価格を見て、合計金額を正確に計算できる。
- 他の子どもに対して、自分が学んだことを説明し、模擬店での役割を問題なく交代できる。
(B) 概ね理解している
- お金を使ったシミュレーション活動で、ほとんど正しい金額を支払い、お釣りの確認が一部できる。
- 商品の価格を見て、大まかな合計金額を計算できるが、細かい部分での計算に誤りがあることがある。
- 他の子どもに対して、自分が学んだことを部分的に説明できるが、一部の説明が曖昧になることがある。
(C) 理解が不十分である
- お金を使ったシミュレーション活動で、金額を正しく支払うことが難しく、お釣りの確認もほとんどできない。
- 商品の価格を見ても、合計金額を正確に計算することが困難である。
- 他の子どもに対して、自分が学んだことを説明することが難しく、模擬店での役割の交代もスムーズに行えない。
7.指導上の留意点
指導を行う際には、子どもの特性や学習環境を考慮した上で、効果的な支援ができるように以下のポイントに留意することが重要です。
(1) ゆっくりとしたペース
知的障害のある子どもは、情報を処理する速度がゆっくりなことがあります。そのため、授業をゆっくり進めることが重要です。
- 指導方法の工夫: 子どもが一つ一つのステップを確実に理解できるように、段階的に指導を行います。例えば、「まず商品を選びます。次に値段を確認します。最後にお金を払います」というように、一つの作業を終えてから次の作業に進むようにします。
- 確認の時間を設ける: 進行中に子どもが理解できているかを確認する時間を定期的に設け、必要に応じて説明を繰り返します。
- 個別対応: 子ども一人ひとりの理解度に合わせて、個別に対応する時間を設けます。
(2) 短い指示
知的障害のある子どもは、長い説明や複雑な指示を理解することが難しいことがあります。そのため、指示は短く、具体的にすることが重要です。
- 具体的な言葉を使う: 抽象的な表現を避け、具体的な言葉を使います。例えば、「教科書を開いてください」ではなく、「教科書の10ページを開いてください」と指示します。
- 一度に一つの指示: 一度に複数の指示を出すと混乱する可能性があるため、一つの指示に集中させます。次の指示は、前の指示が完了してから出します。
- 視覚的補助: 口頭の指示に加えて、視覚的なサポート(イラストや写真)を使用することで、指示の理解を助けます。
(3) ポジティブなフィードバック
知的障害のある子どもは、自分の成功や進歩に気づきにくいことがあります。ポジティブなフィードバックを頻繁に行うことで、自信を持たせ、学習意欲を高めることができます。
- 具体的な褒め言葉: 例えば、「よくできたね!」ではなく、「お金を正しく数えられて、とても上手だったよ!」と具体的に褒めます。
- 小さな成功を認める: 大きな成果だけでなく、小さな進歩や努力も認めて褒めます。これにより、子どもは自分の成長を感じることができます。
- ポジティブな言葉の使い方: 否定的なフィードバックを避け、改善点もポジティブな言葉で伝えます。例えば、「もっと頑張って」と言う代わりに、「次はもう少しゆっくりやってみよう」といった具体的な改善策を示します。
(4) 安定した学習環境の提供
知的障害のある子どもは、環境の変化に敏感であり、安定した学習環境が重要です。
- 一貫性のあるスケジュール: 毎日のスケジュールやルーティンをできるだけ一貫させることで、子どもが安心して学習に取り組むことができます。
- 学習環境の整備: 静かで整理整頓された教室環境を保ち、集中しやすい状況を作ります。余計な刺激を減らし、子どもが学習に集中できるようにします。
- 個別のニーズに応じた環境調整: 子どもそれぞれの感覚過敏や注意力の特性に応じて、環境を調整します。例えば、騒音が気になる子どもには耳栓を提供する、視覚的な刺激が多すぎる場合にはパーティションを使うなどの工夫が考えられます。
(5) 保護者や他の支援者との連携
知的障害のある子どもの教育には、家庭や他の支援者との連携が不可欠です。
- 定期的なコミュニケーション: 保護者との定期的な連絡を通じて、学校での学習状況や家庭での様子を共有します。連携を密にすることで、一貫した支援が可能になります。
- 支援者との協力: 特別支援教育コーディネーターやスクールカウンセラーなど、他の専門家との協力を積極的に行い、子どものニーズに応じた支援を提供します。
- 家庭でのサポート方法の提案: 保護者に対して、家庭でできる学習支援や環境整備の方法を提案し、一貫したサポートを行います。
8.おわりに
抽象的な概念を理解するのが難しい知的障害の子どもに対する指導は、特別な工夫が必要です💡
具体的な事例やビジュアルエイドを活用し、生徒一人ひとりのペースに合わせた支援を行うことで、理解を深める手助けをすることができます😊