「4環境の把握」では,感覚を有効に活用し,空間や時間などの概念を手掛かりとして,周囲の状況を把握したり,環境と自己との関係を理解したりして,的確に判断し,行動できるようにする観点から内容を示している。
今回の改訂では,幼児児童生徒の具体的な指導内容を明らかにする観点から,「(2)感覚や認知の特性への対応に関すること。」の項目を「(2)感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること。」と改めることとした。また,「(4)感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握に関すること。」の項目を「(4)感覚を総合的に活用した周囲の状況についての把握と状況に応じた行動に関すること。」と改めることとした。
目次
「(1)保有する感覚の活用に関すること。」は,保有する視覚,聴覚,触覚,嗅覚,固有覚,前庭覚などの感覚を十分に活用できるようにすることを意味している。
なお,固有覚とは,筋肉や関節の動きなどによって生じる自分自身の身体の情報を受け取る感覚であり,主に力の加減や動作等に関係している感覚である。固有覚のはたらきにより,運動は絶えず軌道修正され,目を閉じていてもある程度正しく運動することができる。
また,前庭覚とは,重力や動きの加速度を感知する感覚であり,主に姿勢のコントロール等に関係している感覚である。前庭覚のはたらきにより,重力に対してどのような姿勢にあり,身体が動いているのか止まっているのか,どのくらいの速さでどの方向に動かしているのかを知ることができる。
「(2)感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること。」は,障害のある幼児児童生徒一人一人の感覚や認知の特性を踏まえ,自分に入ってくる情報を適切に処理できるようにするとともに,特に自己の感覚の過敏さや認知の偏りなどの特性について理解し,適切に対応できるようにすることを意味している。
感覚とは,「身体の内外からの刺激を目,耳,皮膚,鼻などの感覚器官を通してとらえる働き」である。認知とは,「感覚を通して得られる情報を基にして行われる情報処理の過程であり,記憶する,思考する,判断する,決定する,推理する,イメージを形成するなどの心理的な活動」である。
「(3)感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。」は,保有する感覚を用いて状況を把握しやすくするよう各種の補助機器を活用できるようにしたり,他の感覚や機器での代行が的確にできるようにしたりすることを意味している。
「(4)感覚を総合的に活用した周囲の状況についての把握と状況に応じた行動に関すること。」は,いろいろな感覚器官やその補助及び代行手段を総合的に活用して,情報を収集したり,環境の状況を把握したりして,的確な判断や行動ができるようにすることを意味している。
「(5)認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること。」は,ものの機能や属性,形,色,音が変化する様子,空間・時間等の概念の形成を図ることによって,それを認知や行動の手掛かりとして活用できるようにすることを意味している。
認知とは,前述したように「感覚を通して得られる情報を基にして行われる情報処理の過程であり,記憶する,思考する,判断する,決定する,推理する,イメージを形成するなどの心理的な活動」を指す。こうした活動を適切に進めていくことによって幼児児童生徒は発達の段階に即した行動をすることが可能となる。
一方,概念は,個々の事物・事象に共通する性質を抽象し,まとめ上げることによって作られるものであり,認知の過程においても重要な役割を果たすものである。
「認知や行動の手掛かりとなる概念」とは,これまでの自分の経験によって作り上げてきた概念を,自分が新たに認知や行動を進めていくために活用することを意味している。したがって,極めて基礎的な概念を指しているが,常時行われる認知活動によって更にそれが変化し,発達に即した適切な行動を遂行する手掛かりとして,次第により高次な概念に形成されていくと考えられる。